初恋

みんなそれぞれ、思い出したら笑みするような初恋の記憶を心の中に秘めている。

夏と秋の間の、独特の哀愁溢れる日に、私はまた初恋を思い出した。


小学二年生になった初日、私の学校に沢山の転入生がきた。

その中の一人が、私が今まで心にとめてきた男の子で、東京から越してきた。

切れ目で鼻が高くサラサラの黒髪ですらっとしている。

子役時代の神木隆之介くんみたいな雰囲気。

子供版のシティー・ボーイ。

その子は、とても無口であまり教室では感情をあらわにしない。

だいたい静かに本を読んでいたり、大好きなポケモンの絵を書いたりしている。

スポーツやゲームも好きなようで、静かな割にはやんちゃな男子と仲が良かった気がする。

何とも異質な存在で、私はその子が気になって仕方がなかった。

その感情は、恋のようなドキドキとも言えるし、研究対象を見つけた時の喜びのようなものでもあった。


その子は、私と同じマンションの6階に越してきた。

色白で華奢なお母さんと実業家なお父さんと弟の四人家族。

同じマンションで同じ学年だから、当然お母さんたちのご近所づきあいも始まった。

玄関で立ち話をしたり、経営するホテルのレストランに招待してもらったり、色々。

だいたい、私のお母さんと付き合いがあるお母さんの子どもと私は仲良くなる。

だけど、その子は違った。家に行ってもいないし、学校で話すことすらない。

近寄りがたい存在だった。

そして、近寄りがたいほど、私はますます興味津々だった。


小学校高学年になっても、相変わらずポケモンが好きで絵を書いている。

小学校高学年になっても、相変わらず無口で感情を表に出さない。

小学校高学年になっても、相変わらず話すこともない。


エレベーターでよく一緒になることもあったけど、お互い何も話さない。

私も話しかければいいのに、彼の雰囲気を思うとドキドキと緊張して、到底無理だった。

先にエレベーターを降りる時に、「じゃあね」と時々言うので精一杯。


中学では、その子は私立中学へ進学したので会うこともなくなった。

高校時代も、地下鉄で時々会う程度。

でも、会う度にやはりドキドキさせてくれる雰囲気を持っていた。

小学二年生の頃に初めて見たその子と全然変わらない。

やはり、あのクールなシティー・ボーイの雰囲気を纏っていた。

高校生にもなると、背がスラッとしてかっこいい。

彼氏もいた事あるし、他に好きな人もできたけど、その子は私の中でいつも特別。

一度もちゃんと話したことはないけれど。笑

会うたびに、ドキドキさせられていたなあ。


これだけ特異な子だから、クラスメイトの中で人気は高かったし、高校でもイケメンとして言われていたと聞いたこともある。

クールな雰囲気を持つ彼と違って、大声出したり膝を擦りむいたりする活発ポニーテールガールだった私。

そんな私にシティー・ボーイなあの子は興味なんてなかったと思うし、私の片想いで今までずっと来ている。


彼は今どこで何をしているんだろうと、思う事がある。

今じゃ取り巻く状況は大きく変化し、全くわからないけど。

無口な彼は、やっぱり同窓会も来なかった。

会えることなら会ってみたいけど、

こういうのって、思い出やイメージの中にとどめている方がよかったりする。

理想は理想のまま、空中に浮いている方がきれいだ。


でも、幸せでいてほしいな〜。

私にとって大事な記憶の中の人だけど、

リアルな世界の中で、幸せでいてほしい。


来るもの拒まず去る者追わずな私にとって、

これほど心に残る人に出会い心にとどめることは、

時々身が避けるような気もするし、幸せだとも思う。

そして、これから出会う人たちの中に、そういう人がいたら

その人を、大切にしたいと思うのだ。



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